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高松高等裁判所 昭和40年(ラ)39号 決定 1966年2月15日

抗告人 高松信用金庫

右代表者代表理事 大山省三

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は、「原決定を取消す。」との裁判を求め、その理由は、別紙記載のとおりである。

本件記録によると、本件競売申立の宅地建物(原決定添付目録参照)につき、いずれも、伊藤忠エーエムエフボーリング株式会社を権利者として、高松法務局昭和三九年一二月二四日受付第三七〇二九号を以て、同月一五日附代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされていること、しかるに、本件競売の申立に際して、同会社に対し民法第三八一条による抵当権実行の通知がなされていないことが明らかである。「しかしながら、民法第三八一条の目的とするところは、抵当不動産の第三取得者に対しいわゆる滌除権を行使する機会を与え、他面同法第三八二条第二項とあいまつて滌除権行使の時間的限界を劃することにあるのであるから、原決定も説示するように、右通知の相手方は、必ずしも通知の時に既に直ちに滌除をすることができる者であることを必要とせず、その後一ケ月内に、滌除をする可能性を有し、かつこの可能性を警告的な意味で公示している者であれば足りるものと解するのが相当である。そして、仮登記権利者は、通知後一ケ月内に本登記をして滌除をする可能性を有する者であるということができ、しかも、その旨を仮登記によつて、既に抵当権者に警告している者であるから、抵当権者は、抵当権実行による競売申立をするについては、仮登記権利者に対して、抵当権実行の通知をしなければならないものと解しなければならない。

ところで、抗告人は、前記仮登記は、不動産登記法第二条第二号によるものであつて、この場合の仮登記権利者はいわゆる期待権を有するに過ぎないから、民法第三八〇条の法意に照らしても、右会社に対してまで抵当権実行の通知をする要はない、と主張する。しかし、さきにも説示したように、右通知は、単に滌除権行使の機会を与えるに過ぎないものであるから、その相手方の範囲は、通知の時に現に滌除をなしうる者の範囲と同一に解しなければならないものではなく、たとい、通知の時には所有権取得の期待権を有するに過ぎない仮登記権利者であつても、通知後民法第三八二条第二項所定の一ケ月内に本登記をして滌除権を行使する可能性を有する者であれば、その者に対しても、なお、右の通知をなすことを要するものというべきである」。そうだとすれだ、前記仮登記の内容に照らし、前記会社は、抵当権実行の通知があれば、その後一ケ月内に代物弁済の予約完結権を行使して、本件競売申立物件に対する所有権を取得し、その旨の本登記をなし、滌除権を行使する可能性を有することが明らかであるから、抗告人は、本件競売の申立をなすに当つては、仮登記権利者である前記会社に対して、民法第三八一条により、抵当権実行の通知をしなければならなかつた筋合である。したがつて、抗告人の右主張は採用できない。

以上説示によれば、本件競売の申立は不適法であることが明らかであるから、右と同趣旨の下にこれを却下した原決定は、相当であるといわなければならない。

よつて、本件抗告は理由がないので、これを棄却することとし、民事訴訟法第四一四条、第三八四条を準用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 浮田茂男 裁判官 加藤龍雄 裁判官 山本茂)

(別紙)

抗告の理由

本件不動産につき、伊藤忠エーエムエフボーリング株式会社の有する仮登記権利は、原決定理由説示のとおり昭和三九年一二月一五日代物弁済予約を原因としての所有権移転請求権保全の仮登記であつて、その仮登記は、不動産登記法第二条第一号に規定されておる仮登記をなしうる場合の仮登記では無くて、同法条第二号に因るものであることは明かであつて、所謂期待権を有するに過ぎないものでありまして、

本件登記簿上の仮登記は、債務不履行を停止条件とした停止条件附代物弁済契約による所有権移転の仮登記ではないものであります。

従つて本件伊藤忠エーエムエフボーリング株式会社の当該仮登記は、代物弁済の予約が仮登記の原因であり、その仮登記は、所有権移転請求権保全の仮登記であるから、この仮登記が本登記に移せる段階には、尚代物弁済契約の道程があり、代物弁済契約の締約を俟つてはじめてこれにより仮登記が本登記に移せるものでありますから、右の本件仮登記は、本登記に移る条件を具備するに至るか、どうかは未だ不明であつて、そのような本件仮登記権利者をも併せ指称して民法第三七八条規定の第三取得者とすることは、原審の独断推測で法の解釈を誤られておるもので承服できません。

若し仮に、本件の仮登記が停止条件附代物弁済契約による停止条件附所有権移転の仮登記であるならば、或はその停止条件が既に到来成就しておることの推測が可能と云えないこともないが、停止条件附代物弁済契約でない本件代物弁済予約の時点においては、未だ当該仮登記権利者を第三取得者と即断して之を遇すべき理由は存在しないところであります。

民法第三八〇条に停止条件附第三取得者は条件の成否未定の間は抵当権の滌除ができない、と明かに定められておる法意に照しても、原決定は失当であります。

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